フォン・ノイマンの生涯2010-04-02 02:45

著者 ノーマン・マクレイ 渡辺 正、芦田 みどり訳
発行 朝日新聞社 1998-09-25 第1刷 2001-12-15 第4刷
価格 1,900+税 (マーケットプレイスで 977)
ISBN4-02-259710-0

 京都に原爆を投下しようとし、核兵器開発の放射線が原因と思われるガンで死んだフォン・ノイマンがどんな人物か知りたかった。もちろん、ノイマンアーキテクチャの考案者であることは分かっているが。

 この本ではノイマンが天才にしては「気さく」であると描かれている。少々意外。また、著者は少々日本びいきである。そのためか、原爆の日本への投下のノイマンの関与はあまり詳しく書かれていないように感じられる。
 やはり、日本の敗戦は「ノイマンの爆縮レンズ」を用いたプルトニウム型原爆(長崎型)を試すまで延期させられたと思わせる流れが感じられる。もちろん、プルトニウムは日本を破壊するのが目的ではなくソ連に対する核抑止力を形成するのが目的である。いやな言い方ではあるが長崎はモルモットとして使われた可能性が大きい(もちろん、そんな直接的な表現は本書には書かれていないが)。
 冷戦の形成に関してノイマンが理論的裏付けをしているように感じさせる記述がいろいろなところに見られる。ゲームの理論の研究がそうさせたのか?純粋な科学にも、現実のパワーゲームにも参加したということで、将来はギリシャの哲学者達と並べられることになるのかもしれない。
 もちろん、本書は原爆はノイマンが通り過ぎていった一分野としてしか書かれていない。ほかの分野の記述で意外だったのはコンピュータに対する考え方である。ノイマンはマッカローとピッツによる神経モデルを知っていた。そしてニューロコンピュータのようなものを目指していたと思われる。しかし、現実の電子部品達を見て、現実的なアーキテクチャを設計し、順次処理のノイマンアーキテクチャを発表し続けたようである。もし高速計算にしか興味がなければセルオートマトンに凝ったりしなかったろう。
 あと、気象に対する見方が大胆である。近未来に制御可能であると思っていたのだから。おそらくノイマンはカオスやフラクタルについてはまだ気づいておらず、量子現象によらなくても予測が困難なことがあるということがわからなかったのではないか。
 しかしノイマンがカオスやフラクタルに気づいていたら、さらに発展させてそれらと神経モデルや生命現象の関連を浮き彫りにさせていたかもしれない。カオスやフラクタルと生命現象がなんらかのつながりがあるような気はしても、ぼやけていていてなかなか見えてこない。そういうところにノイマン級の天才が現れることを望む。でもできたらその天才は兵器開発には関わらないで欲しい。いろいろな意味で。




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